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広島家庭裁判所 昭和47年(家)261号 審判 1973年1月08日

申立人 張本常夫(仮名)

被相続人亡 張本千代乃(仮名)

主文

被相続人張本千代乃の別紙目録記載の相続財産を申立人に分与する。

理由

(申立ての趣旨)

申立人は「被相続人張本千代乃の相続財産全部を申立人に分与する。」との審判を求めた。

(申立ての実情)

被相続人は昭和四二年一〇月一三日申立人の実父張本時蔵(昭和四三年七月三一日死亡)と婚姻したが、同人の死後は、申立人が被相続人の希望により同人を引取り家族と一緒に生活させ、その面倒をみてきた。そして被相続人は昭和四三年一二月一日病死した。

よつて申立人は被相続人の特別縁故者として本件申立てに及んだ。

(当裁判所の判断)

本件記録ならびに昭和四五年(家)第四六号相続財産管理人選任審判事件、同年(家)第三七九号相続財産管理人権限外行為許可審判事件および昭和四六年(家)第七八三号相続人捜索の公告審判事件、の各記録によれば、以下の事実が認められる。

1  被相続人は昭和四三年一二月一日死亡し、別紙目録記載の第一ないし第二八の遺産があるが、相続人のあることが明らかでないため、その相続財産の管理につき申立人の請求により当庁昭和四五年(家)第四六号事件において相続財産管理人として安田隆治を選任し、その旨公告された。

そこで相続財産管理人安田隆治は昭和四六年一月三〇日相続債権申出の公告をなしさらに同人の請求により当庁昭和四六年(家)第七八三号事件において「被相続人について相続権を主張するものは昭和四六年一二月二〇日までに申出されたい。」旨の公告をしたが、いずれも期間内に権利を主張するものがなかつた。

2  被相続人は、申立人の実父張本時蔵と昭和四一年ごろから同棲生活をしてきたが、昭和四二年一〇月一三日婚姻届を提出した。同人等は、申立人の住む本宅から約二〇〇メートル離れた所で、張本時蔵の戦死した息子の年金と申立人の援助をうけて、隠居暮しをしていた。ところで昭和四三年七月三一日張本時蔵が脳溢血で死亡したが、被相続人には身寄りがなかつたため、以後申立人が被相続人を自宅に引取り、死亡までその生活の一切の面倒をみてきた。

3  被相続人は前述のとおり昭和四三年一二月一日病死したが、申立人が喪主となつてその葬式を行ない、さらに供養を続けてきた。

4  被相続人はもともと無資産に等しい身であり、別紙目録記載の第一ないし第二六の不動産などは張本時蔵の遺産に属し、申立人と被相続人がこれを法定相続分に応じて相続したものであるところ、被相続人はその共有持分権を申立人に生活の面倒をみてもらう代償として同人に贈与したい意向をもつており、同人は前記不動産に関する公租を全部負担してきた。

なお、別紙目録記載の第二七の現金は、前記張本時蔵の遺産である不動産につき、広島県より河川改修工事のための用地として買収の申込みがあつたため、相続財産管理人安田隆治において権限外行為の許可を得て、申立人と共同で同人の共有持分権とともに、被相続人の共有持分権を広島県に対し売却した代金のうち、被相続人の共有持分権の代金分として受領した一七五、二〇〇円を芸北町農業協同組合八幡支所に一時預金した元利の合計で、現在前記相続財産管理人の手許に保管中のものである。

以上認定の事実によれば、申立人は被相続人と民法九五八条の三所定の「特別の縁故があつた者」に該当するものと解すべきである。

ところで共有持分権が特別縁故者への分与の対象となるかどうかについて議論の存するところであるが、民法九五八条の三の規定は同法二五五条の規定に優先して適用されるべきものと解するのが相当である。けだし両者の規定はともに遺産が相続人のないことを理由に直ちに国庫に帰属することを避ける趣旨のものであるが、昭和三七年法律四〇号により民法九五八条の三が新設され、相続人不存在が確定した場合家庭裁判所は清算後残つた相続財産の全部または一部を被相続人と特別の縁故があつた者に対し分与できる旨を特に定めた規定の精神よりすると、共有持分権を例外とすべき合理的事由がないのみならず、仮に民法二五五条が同法九五八条の三に優先して適用されるものと解するときは、本件の場合被相続人の共有持分権のうち、相続財産管理人安田隆治において売却の必要があつて換価された別紙目録記載の第二七の現金については分与の対象となるのに対し、同目録記載の第一ないし第二六の不動産に関する共有持分権はその対象から除外されることになるが、相続財産管理の途上に起こつたいわば偶然的な事情によつてその取扱いに差異が生ずる結果となり、不合理もはなはだしいからである。

かかる見解のもとに考えるに、本件の場合被相続人の相続財産全部を申立人に分与するのが相当であるから、民法九五八条の三により主文のとおり審判する。

(家事審判官 高山健三)

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